特定技能について 移民政策をおこなっていない日本では外国人の単純労働は原則として禁止されています。 しかし深刻な人手不足に対応するために、2019年4月より、建設業、造船・舶用工業、自動車整備業、航空業、宿泊業、介護、ビルクリーニング、農業、漁業、飲食料品製造業、外食業、素形材産業、産業機械製造業、電子・電気機器関連産業の14の業種での「相当程度の知識又は経験を必要とする技能」と認められる業務に従事する「特定技能1号」と、建設業、造船・舶用工業の2つの業種で家族滞在や在留期間更新が可能な「特定技能2号」いう在留資格が新設されます。(在留資格に関しては『在留資格とは』をご参照下さい) 「特定技能」とはどういったもので、資格を取得するためにはどのような要件があるのかなどを判りやすくご説明したいと思います。 ※特定技能の外国人の探し方から雇用までの具体的な流れは以下をご参照下さい。
詳細な説明をする前に、まずは特定技能に関する運用要領をご紹介します。 1号特定技能外国人支援に関する運用要領 運用要領には特定技能に関する法令の解釈や運用上の留意点などが網羅されています。 「特定技能外国人の受入れに関する運用要領」を基に、特定技能とはどのような制度なのかをご説明したいと思います。
「特定技能」という在留資格が検討されている背景には日本の労働人口と求人に関する現状を理解する必要があります。 どのような状況なのかをみてみましょう。
日本では1997年をピークに生産年齢人口が減少しています。 生産年齢とは簡単に言いますと「働くことができる年齢」で日本では「15歳以上65歳未満」を生産年齢としています。 つまり15歳以上65歳未満の人口が1997年以降減り続けているのです。
生産年齢人口が減っているにも関わらず、有効求人倍率は2017年12月には43年ぶりの高水準となっています。 有効求人倍率とは、ハローワークで仕事を探す人1人に対し、何人分の求人があるかを示す指標です。 2017年12月の1.59倍というのは、100人の求人に対して159人分の仕事があるということです。 それだけ労働力が不足しているということになります。
「留学」や日本に在留資格を持つ人の家族として滞在する「家族滞在」という在留資格では原則として就労はできませんが、「資格外活動」という許可をとることで週28時間以内のアルバイトは出来るようになります。(詳しくは『資格外活動とは』をご参照下さい。) この資格外活動をしている数が2008年では70,833人だったのが、9年後の2017年では297,021人と226,000人以上増えています。 資格外活動の他には「技能実習」という在留資格での労働者数が増加しています。 日本には技能実習制度という制度があります。 日本で培われた技能、技術又は知識を開発途上地域等へ移転して、その開発途上地域等の経済発展を担う「人づくり」に寄与するという目的の制度ですので、労働力の需給の調整手段として行われてはならないとされています。
このような労働人口の減少と求人倍率の増加の中で、週28時間以内のアルバイトや単純労働が認められない技能実習生では対応ができなくなり、一定のルールのもとで外国人の新たな就労を認める在留資格を創設が検討されることになりました。 そこで、特に国内では充分な人材の確保ができない14分野を「特定産業分野」として、特定産業分野に限って外国人が現場作業などで就労することができるようになりました。(特定産業分野に関しましては後述しますが、「特定産業分野とは」でもご説明していますのでご参照下さい。)
特定技能の外国人を雇用できる分野を「特定産業分野」と言います。 特定産業分野に指定されているのは、以下の14業種です。(2019年2月22日現在) 介護業 ビルクリーニング業 素形材産業 産業機械製造業 電気・電子情報関連産業 建設業 造船・舶用工業 自動車整備業 航空業 宿泊業 農業 漁業 飲食料品製造業 外食業
初年度となる2019年度の外国人労働者受け入れ数は32,800~47,550人とされています。 2019年度から2024年度までの5年間では、最大で345,150人を見込まれています。 2025年までの人手不足の見込は約145万5000人となっています。 その内、特定技能外国人で補うのは約24%です。 特に介護業、外食業、建設業、農業、宿泊業などの人手不足見込み数に対して、特定技能外国人の受入上限数が少ないので、これらの業界では特定技能外国人の雇用確保が重要なポイントになると思います。 特定技能外国人は同じ業種など一定条件下で転職も可能ですので、採用すればおわりというのではなく、働きやすい環境を整備して長く働いてもらうような努力も必要になると思います。
新設される「特定技能」と従来の就労系在留資格「技術・人文知識・国際業務」と「技能」との主な違いは以下の通りです。 従来の就労系在留資格では単純労働ができないという点以外に、学歴要件や実務経験要件も外国人が日本で就労できない障壁となっていました。 特定技能はこういった学歴要件や実務経験要件がないことも大きなポイントとなります。
特定技能は技能実習と同じように1号、2号と分かれているために、技能実習と似ている在留資格だと思われている人も多いのではないかと思います。 しかし特定技能は技能実習とは全く異なると言っても良いくらい認められている活動が異なります。 技能実習制度の目的・趣旨は、日本の技能、技術、知識を開発途上地域へ移転して開発途上地域の経済発展を担う「人づくり」に寄与するという「国際協力の推進」です。 「技能実習は、労働力の需給の調整の手段として行われてはならない」(技能実習法第3条第2項)と記されています。 「技能実習制度」は日本の技術を開発途上地域へ移転して経済発展してもらうことが目的の制度ですから、食堂の配膳などの作業をすることはできません。 一方、「特定技能」は外国人労働者としての在留資格です。 「特定技能」は、日本国内で人材不足が顕著な業種の労働力を確保するための在留資格ですので、特定技能の対象となる業種であれば、広い範囲での労働をおこなうことができます。 (技能実習制度に関しましては『外国人技能実習制度とは』のページで詳しくご説明していますので、ご参照下さい。)
特に特定技能外国人を雇用する場合、「受入れ機関が直接海外で採用活動を行い」又は「国内外のあっせん機関等を通じて採用する」ことが可能という点が大きなポイントになると思います。 雇用の流れは以下のページでもご説明していますので、ご参照下さい。
特定技能では、業界ごとの特定技能外国人の最大受入数は決まっていますが、介護業と建設業以外は受入れ機関ごとの人数枠はありません。 この点も技能実習制度との大きな違いと言えます。
特定技能には「特定技能1号」と「特定技能2号」という2種類の在留資格があります。 特定技能1号とは、「特定産業分野に属する相当程度の知識又は経験を必要とする技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格」です。(『特定技能1号とは』でも詳しくご説明しています。) 特定技能1号の在留資格をもつ外国人を「1号特定技能外国人」と言います。 1号特定技能外国人に対して求められる「相当程度の知識又は経験を必要とする技能」とは、「相当期間の実務経験等を要する技能であって、特段の育成・訓練を受けることなく直ちに一定程度の業務を遂行できる水準のもの」とされています。 1号特定技能外国人を雇用する場合、受入れ機関又は登録支援機関が支援計画を策定して支援をおこなわなければいけません。(支援計画に関しましては『1号特定技能外国人支援計画とは』で詳しくご説明していますので、ご参照下さい。) 「技能実習2号」修了者は、「特定技能1号」の技能試験・日本語能力試験の合格が免除されます。 「技能実習2号」修了者が「特定技能1号」に変更する場合、一定の条件を満たしている場合、在留資格に関する特例措置があります。(在留資格「特定技能」へ変更予定の方に対する特例措置)
特定技能1号の在留期間は、1年・6か月又は4か月ごとの更新で通算で上限5年までとなっています。
技能水準は、分野別運用方針において定める当該特定産業分野の業務区分に対応する試験等により確認します。 「技能実習2号」を修了した外国人は試験等が免除されます。
生活や業務に必要な日本語能力を試験等で確認します。 技能実習2号を修了した外国人は試験等が免除されます。
1号特定技能外国人の家族の帯同は基本的に認められません。
同一の業務区分内又は試験等によりその技能水準の共通性が確認されている業務区分間であれば転職が可能です。 ただし、退職から3ヶ月を超しても特定技能に該当する活動を行っていない場合は、在留資格の取消手続の対象となる可能性があります。(正当な理由がある場合を除きます)
特定技能2号とは、「特定産業分野に属する熟練した技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格」です。 特定技能2号の在留資格をもつ外国人を「2号特定技能外国人」と言います。 2号特定技能外国人に対しては支援計画の策定実施は不要です。 建設業と造船・舶用工業の2業種が2021年度から試験を始める予定となっています。
特定技能2号の在留期間は、3年・1年又は6か月ごとの更新となっています。 特定技能1号と違って、在留期間の上限は設定されておらず、在留期間の更新ができ、条件を満たせば永住申請も可能となります。 別の就労系の在留資格である「技術・人文知識・国際業務」や「技能」「経営・管理」でも在留期間の更新や条件を満たした場合の永住申請が可能ですので、特定技能2号は従来の就労系在留資格に近い在留資格と言えます。
技能水準は、分野別運用方針において定める当該特定産業分野の業務区分に対応する試験等により確認します。
特定技能2号の日本語能力水準は試験等での確認は不要とされています。
特定技能2号は要件を満たせば家族の帯同が可能になります。 この場合の家族とは、配偶者や子を指しますので、親や親戚などは含まれません。
同一の業務区分内又は試験等によりその技能水準の共通性が確認されている業務区分間であれば転職が可能です。 ただし、退職から3ヶ月を超しても特定技能に該当する活動を行っていない場合は、在留資格の取消手続の対象となる可能性があります。(正当な理由がある場合を除きます)
特定技能の在留資格を取得するためには、以下のどちらかが必要になります。 特定技能評価試験に合格する 技能実習2号を修了する それでは、それぞれどのような条件なのかをみてみましょう。
特定技能評価試験とは、各職種ごとの業界団体が国が求める基準をもとに、「技能水準」と「日本語能力水準」の試験を作成し実施される試験です。 技能試験が始まる時期は以下のように予定されています。 2019年4月 宿泊業、介護業、外食業 2019年10月 飲食料品製造業 2019年秋以降 ビルクリーニング業 2020年3月まで 残りの9業種 14業種共通の日本語能力判定テストは2019年から始まる予定です。 技能水準及び日本語試験は原則として日本国外で実施されます。 当面はベトナム、フィリピン、カンボジア、中国、インドネシア、タイ、ミャンマー、ネパール、モンゴルの9カ国で実施されます。 (詳しくは「特定技能評価試験とは」をご参照下さい。)
「特定技能」の創設から5年間に受け入れる外国人労働者のうち45%が「技能実習」からの移行者と試算されています。
特定技能の制度には「特定技能所属機関(受入れ機関)」と「登録支援機関」という2つの機関があります。 それでは、それぞれどのような機関なのかをみてみましょう。 「特定技能所属機関(受入れ機関)」とは 特定技能所属機関とは、外国人と直接雇用契約を結ぶ企業(受入れ機関)です。 外国人が所属する機関は一つに限られます。 複数の特定技能所属機関との雇用に関する契約は認められません。 外国人と締結する契約は、報酬額が日本人と同等以上であることなどを確保するため、以下の基準に適合することが必要になります。 また報酬は、預貯金口座への振込等支払額が確認できる方法によって行わなければいけません。 労働関係法令・社会保険関係法令の遵守 欠格事由に該当しないこと等 支援計画に基づき,適正な支援を行える能力・体制があること等(特定技能1号外国人材の場合に限る) 支援計画とは、以下のような項目に関する計画です。 特定技能外国人を雇用する場合、職場生活、日常生活、社会生活においての支援をしなければいけません。 以下のような支援を自社で行えない場合は、後述する「登録支援機関」に委託することになります。 入国前の生活ガイダンスの提供 外国人の住宅の確保 在留中の生活オリエンテーションの実施 生活のための日本語習得の支援 外国人からの相談・苦情への対応 各種行政手続についての情報提供 非自発的離職時の転職支援 その他 (支援計画に関しましては『1号特定技能外国人支援計画とは』で詳しくご説明していますので、ご参照下さい。) 受入機関は特定技能外国人を雇用した後も、随時又は定期的に以下のような届出をしなければいけません。 特定技能雇用契約に係る届出書 支援計画変更に係る届出書 支援委託契約に係る届出書 受入れ困難に係る届出書 出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為に係る届出書 受入れ状況に係る届出書 支援実施状況に係る届出書 活動状況に係る届出書 詳しくは『「受入れ機関」がおこなう届出・報告』でご説明していますので、ご参照下さい。
登録支援機関とは、受入れ企業に代わって支援計画の作成・実施を行う機関です。 登録団体機関として登録できる対象は、支援体制を備えた業界団体、民間法人、社労士等の幅広い主体を想定されています。 登録支援機関は以下の基準に適合することが必要になります。 欠格事由に該当しないこと等 支援計画に基づき,適正な支援を行える能力・体制があること等 詳しくは『登録支援機関とは』のページで説明していますので、ご参照下さい。 登録支援機関は、以下のような届出及び報告を登録支援機関(「支援計画の実施状況に関する届出」は受入れ機関)の所在地を管轄する地方出入国在留管理局へ持参又は郵送によっておこなわなければいけません。 登録事項変更に係る届出書 支援業務の休止又は廃止に係る届出書 支援業務の再開に係る届出書 支援計画の実施状況に関する届出 詳しくは『「登録支援機関」がおこなう届出・報告』でご説明していますので、ご参照下さい。
特定技能外国人は、フルタイムとした上で、原則として直接雇用となります。 但し、以下の全てを満たす場合は、例外的に特定技能所属機関(受入れ機関)が派遣元となり、派遣先へ派遣を行う派遣形態を採用することが認められます。 特定技能所属機関が特定産業分野に係る業務又はこれに関連する業務を行っている場合 分野の特性に応じ、派遣形態とすることが必要不可欠なものである場合 派遣先が所定の条件を満たすことを確認できた場合
「特定技能雇用契約」とは、出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律で以下のように定義されています。 別表第一の二の表の特定技能の項の下欄第一号又は第二号に掲げる活動を行おうとする外国人が本邦の公私の機関と締結する雇用に関する契約 要するに、特定技能の在留資格を持つ外国人と雇用する会社との雇用契約です。 従事する業務や労働時間、報酬額などを適正に定めなければいけません。 特定技能雇用契約に関しましては『特定技能雇用契約とは』で詳しくご説明していますので、ご参照下さい。
2018年12月25日現在では、社会保険の加入は外国人の在留資格取得要件とはされていません。 しかし11月9日の衆院法務委員会で、山下貴司法相が「悪質な社会保険料の滞納者に対しては、在留を認めないことを検討している」と発言されています。 「社会保険の加入を促進する取り組みを検討したい」との考えも示されています。 健康保険に関しては、現在では被保険者が外国人でも日本人でも、海外に住む扶養家族が来日して治療を受けた場合、自己負担は3割になります。 海外で治療を受けた時は、一度全額を自分で支払ってから、保険適用分について払い戻しが受けられる「海外療養費制度」が使ます。 この健康保険を使える扶養家族を日本国内に住む人に限る方向で検討が進められています。 厚生年金に関しても現在は、外国人労働者の配偶者が海外に住んでいても日本の年金を受け取ることができます。 3号被保険者となる配偶者の要件に「国内居住」という要件の追加が検討されています。 外国人労働者の社会保険に関しましては『外国人の社会保険とは』で詳しくご説明していますので、ご参照下さい。
出入国管理業務上の支障があると判断した国に対しては、受け入れの制約したり在留資格付与を厳重に審査するなどを検討されています。 出入国管理業務上の支障がある国とは、以下のような国をさします。 日本から退去強制となった外国人の身柄を引き取らない国 乱用的な難民認定申請や不法滞在者が多い国 退去強制とは不法滞在や刑事事件で有罪が確定するなどの理由で在留資格を取消されて日本国外への退去を命じられることです。 (在留資格の取消しに関しましては『在留資格の取消し制度とは』で詳しくご説明していますのでご参照下さい。) 参考ニュース:新設の在留資格、イラン・トルコは除外へ 来月最終決断
外国人材の受入れ・共生に関する関係閣僚会議 特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する基本方針(案) 特定技能の在留資格に係る制度の運用に関する方針(案) 外国人材の受入れ・共生のための総合的対応策(案)
出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律 出入国管理及び難民認定法及び法務省設置法の一部を改正する法律案 可決成立日 平成30年12月8日
いかがでしたでしょうか。 今まで外国人の単純労働を認めていなかった日本が5つの分野でかつ期間限定としても、外国人の単純労働を認めることを検討しているというのは大きな方針転換だと言えます。 特に現在深刻な人手不足で悩んでいる建設、農業、宿泊、介護、造船の分野にとっては朗報であるとも言えます。 ただし、外国人が増える事で治安の悪化などの不安要素もありますので、社会の安全面での対策も整備される必要があると思います。 |